事例
住宅街の日常に溶け込んだ モダンな感性が息づく寺院建築
長年のお付き合いから生まれた敷島住宅の新しい挑戦。
大阪府守口市内の閑静な住宅街に、木造のモダンな建物が佇みます。実はこちら、金剛峰寺を総本山とする高野山真言宗の寺院「真照寺」。敷島住宅が初めて手掛けた唯一の寺院建築です。
主に個人向けの住宅の設計施工を行う弊社ですが、住職の星野真康さんと弊社社長の川島永好とはお付き合いが長く、今回は「是非に」というご依頼を受け、お寺の再建(さいこん)を請け負うことになりました。
とはいえ、大規模なお寺の工事に着手するのは弊社としても初めてのこと。その建築様式にルールはあるのか、本堂や護摩堂は何を参考に造ればいいのか。何もかもが手探りの状態で、営業担当者は休みの日を利用して高野山金剛峰寺まで足を運んだといいます。
そして平成25年8月に客殿を完成させ、平成28年10月に本堂と護摩堂を竣工させました。まずその外観ですが、「街並みに溶け込むシンプルなものに」という住職のご要望で、カビにはならず、余分な装飾を排除したモダンなデザインに仕上げました。ただし、本殿の屋根は美しく弧を描く軒反りに、頭上には悟りのシンボルである宝珠を戴くなど、仏教寺院ならではの意匠をはっきりと残しています。
また、衆生に救いの手を差し伸べる地蔵菩薩を安置した地蔵堂を往来からよく見える場所に、さらにはお釈迦様の足跡を刻んだ仏足石を配置し、お寺の前を行き交うだけで仏の御心に触れられるような表構えにしています。
木肌の美しいヒノキを多用 荘厳な本殿は圧巻のひと言
モダンな外観とは打って変わって本堂内部は、日本古来の仏教建築には欠かせないヒノキをふんだんに配した厳かな雰囲気。格調高い格子天井の下、不動明王をご本尊とする内陣が設けられ、参拝者が集う外陣には、裏を返せば畳表になるという朱色の絨毯が敷かれています。
「気軽にふらっと立ち寄ってもらえるように、いろいろ工夫しているんですよ(笑)」と住職の奥様。スペースを広めに確保した玄関は、車イスでも入場できるバリアフリー。扉をびっちり閉めていても閉鎖的にはならず、ガラス戸から本堂内部の様子が日一目瞭然でわかります。
また、別棟の客殿には17畳分の広さを誇る大広間を設け、すっきりと歪みなく板を敷き詰めた底目地天井が上品な和の風情を醸し出しています。本来客殿は、法事や総代会などで訪れただんかさんを接遇するための場所。ゆったりとリラックスできる雰囲気作りは、数多くの住空間を手掛けてきた敷島住宅の得意分野といえるでしょう。
機能的で品格漂う護摩堂は真照寺のシンボリックな存在
ところで密教系の各寺院には、護摩を焚き、修行を執り行う「護摩堂」とよばれる仏堂が存在します。今回の再建で真照寺に新たにお目見えした護摩堂は、艶やかでありながら、重厚感のある造りが特徴です。
ご存知のとおり護摩堂では、護摩壇に火を点じて加持祈祷を行うため、壁・床・天井にも耐火性のある不燃材を使用せねばならず、煙の処理をスムーズに行える肺炎装置を取り付ける必要がありました。
さらには煙に含まれる灰や煤などで堂内が汚れてしまうため、普段のお手入れやメンテナンスのしやすさも重要なポイントでした。いわば機能的でありながら、信仰の場としての品位がそこには求められたのです。
「この出来映えには満足しています」と穏やかな口調でお話される住職。衆生の現世利益を願う加持祈祷に定評があり、噂を聞き付けた数多くの参拝者が集う真照寺で、護摩堂は特別な意味を持つ空間といえるかもしれません。
今日もまたこの場所で、癒される人の心があるはずです。