
【対談】「パッシブデザイン7地域モデル」はいかにして生まれたか
2025年8月19日
こんにちは。敷島住宅、広報課の和田です。
敷島住宅の「パッシブデザイン7地域モデル」は、千葉工業大学 創造工学部建築学科・金子尚志先生のご協力のもと構築されました。
今回は、同モデルの開発に尽力いただいた金子先生と、弊社取締役設計 加藤武司の対談をお届けします。
金子先生は2024年3月まで滋賀県立大学に在籍され、2017年から敷島住宅との産学共同プロジェクトを進めてこられました。
「パッシブデザイン7地域モデル」誕生の経緯から、現在も進行中の具体的な取り組み、そして今後の展望までお話しいただきます。
【プロフィール】金子尚志教授
http://www.cit-architecture.jp/index.html?page=lab.KanekoNaoshi
以下、聞き手:加藤 語り手:金子先生 進行:和田
目次
パッシブデザインとは?
――まず、あらためてパッシブデザインとはどのようなものかお聞かせください
金子先生
一般的に「パッシブデザイン」と呼ばれているのは、エアコンや暖房器具など電気やガスなどの人工的なエネルギーの使用を極力減らし、窓からの風や太陽の光、暖かさを活用しながら、快適に過ごせる住宅を考えていく設計手法を指します。
――パッシブデザインは、今、時代的に求められているのでしょうか?
金子先生
今というよりは2000年以降から広く知られるようになり、現在ではパッシブデザインを先進的に取り入れた住宅の普及がかなり進んでいますね。
加藤
日本も「2050年には温室効果ガスをゼロにして地球環境に貢献する※」ことを打ち出していますが、世界でも同様に様々な取り組みが行われています。当社も自然のエネルギーを活用するパッシブデザインに取り組み、地球環境に貢献していきたいと考えています。
金子先生
CO2排出ゼロを目指す動きの中で、それだけに留まらず、それをきっかけとして住まいの快適さに繋がり、我々の暮らしが豊かになれば、とても良いのではないかと考えています。
――社会や地球環境だけではなく、私たち自身の暮らしに繋がっているということですね。
※【参考】2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。「排出を全体としてゼロ」というのは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。
引用:環境省「脱炭素ポータル」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/
金子研究室と敷島住宅の歩み
レクチャーの依頼から共同プロジェクトに発展
――金子研究室と敷島住宅の連携のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
金子先生
2024年3月まで滋賀県立大学で研究・教育を行っており、その中でレクチャーのご依頼をいただいたのが始まりでした。私たちの専門分野でもあり、喜んでお引き受けしました。ただ、これまでは講演後に一時的な共感はあっても、それきりになることが多く、少し物足りなさも感じていました。
敷島住宅さんとは継続的な議論の機会があり、2府1県で地域性を掘り下げながら事業展開を模索されていることを知り、新たなプロジェクトに発展していきました。
――話が大きく広がり、2017年11月には共同研究がスタートしたわけですね。
「パッシブデザイン7地域モデル」誕生へ
――「パッシブデザイン7地域モデル」が生み出された経緯をお聞かせください。
金子先生
地域性を活かしたパッシブデザインの可能性について、研究室と敷島住宅さんで議論を重ねました。2府1県という行政区分では地域の個性を十分に表せないのではと考え、かつての「藩」など歴史的な単位で見直してみたところ、7つの地域に分けられることが分かりました。
それぞれに異なる気候や文化的背景があり、そこに合った住宅のあり方考えていけば、とても面白いのではないかということと、何よりもそこに住まう方に地域の魅力を再認識してもらうきっかけになればと考えました。
加藤
「地域に根付く」という点では、金子先生は滋賀県の大学で教鞭を取られていましたし、私たちは滋賀でも住宅供給を行っていることもあり、その点でもご縁があったわけですね。
金子先生
そうですね。今ちょうど「地域に根付く」という言葉がありましたが、「根付く」は植物をイメージした言葉ですよね。植物は自ら動けないがゆえに、地域によって植物が作る風景も異なってきます。建築も同じで、その地域の風景をいかに作るかで、住まう人にとってのメリットや、住まいを大切にしていく思いに繋がっていけばと思っています。
そのような観点から、地域性を重視して家を作る研究や設計に一緒に取り組ませていただきました。
加藤
京都・大阪・滋賀を7地域に分ける発想は、地域密着の事業展開を重視する弊社の方針にもとてもマッチしていました。
初めて1カ所目の「近江西、風の通り土間の家」を見たとき、新しさとともに、今後のパッシブデザインの方向性が具体的に見えてきた感覚がありました。
金子先生
パッシブデザインが浸透する中で、敷島住宅さんならではの個性を形にし、豊かな住まいや暮らしに繋げていくという点で、意義のある取り組みになっていると思います。
「グッドデザイン賞2019」を受賞
――「近江西、風の通り土間の家」のグッドデザイン賞の応募に向けた準備でも、金子先生に大変お世話になり、受賞を果たすことができました。
金子先生
私もデザインやプロデュースに携わっており、グッドデザイン賞への応募の準備をお手伝いしました。
審査員からは「こうした取り組みが今後も増えていくことに期待したい」との講評があり、まさに「パッシブデザイン7地域モデル」の意義を評価するメッセージだと受け止めました。
加藤
実際にお住まいのお客様からは、「住まいを育てているような感覚で、豊かに暮らせている」とのお声をいただいています。住宅を提供する立場として、非常にありがたく感じましたし、今後もパッシブデザインを通じて、より良い暮らしを届けられると実感しました。
金子先生
私も訪問した際、とても上手に住まいを活用されていると感じました。設計をしている立場としては、完成するとどうしても“手放す”という印象があるんですね。「住まいを育てていく」という発想は、設計者にとって大きな励みです。住まいは完成して終わりではなく、暮らしの中で育まれていくものであり、そのポテンシャルを感じてもらえる住宅を目指しています。
2カ所目の「山城北」への取り組み
――2カ所目は、京都の精華町下狛、「山城北」の住宅でしたね。
金子先生
グッドデザイン賞の受賞で活動に弾みがつき、下狛の設計に取り組みました。敷地を学生たちと調査した際、南側の公園に大きな可能性を感じました。
花をつけたり、葉っぱを落としたりと季節ごとに変化する樹木があり、これもパッシブデザインの要素になり得ると考えました。「いかにして風を通すか」をテーマに、公園の景観を生かしつつ、新しい部材の開発・導入し、ドア上に窓を設けるなどの工夫にも挑戦しました。
加藤
「パッシブデザインは敷地や地域の特性によって異なる」という考え方を、より強く意識するようになった住宅でした。
また、学生の皆さんがモデルハウス完成後も室内の温度測定などを続けてくださったことが印象的でした。建てた後の環境まで丁寧に検証していただき、パッシブデザインを行う過程として非常に意義ある取り組みだったと思います。
金子先生
そうですね。2週間ほどかけて、室内の温度変化や風の流れなどを計測し、結果を次の計画に生かすべく報告書としてまとめ、皆さんと共有しました。
敷島住宅さんでは、プロジェクトチームだけではなくて、広く社内に向けて共有されている点も素晴らしいと思っています。
3カ所目の「西郷通」への取り組み
金子先生
3カ所目となる大阪・守口市の西郷通では、最初は南側1棟のみのご依頼でしたが、「外構を形成するモデルとして、南北2棟をセットで考えた方がよいのでは」とご提案したところ、快く採用いただきました。「理想のモデルをつくるんだ」という強い思いを感じましたね。
加藤
1・2カ所目が個別の住宅だったのに対し、西郷通は「分譲地全体でパッシブデザインをどう取り入れるか」をテーマにしていました。
北側と南側それぞれにモデル棟を建て、一般的に光が入りにくい北側でもしっかり採光できる設計を実現できたと思います。
金子先生
ありがとうございます。当初から町並み全体を考えた上で設計を進め、屋根の向きに違いを持たせて採光性を高めるなどの工夫を重ねました。そのため、この2階のリビングは高い位置の窓から光が差し込み、非常に明るい空間になっています。1棟だけでは難しい設計も、全体で考えることでパッシブデザインを達成できていると思います。
今計画している4カ所目の京都の「山城南」も完成が楽しみですし、完成後は多くの方に公開できれば嬉しいです。
金子研究室と敷島住宅の取り組みで印象に残っていること
――これまでの共同プロジェクトで、特に印象に残っていることはありますか?
加藤
これまで多くの現場に立ち会ってきましたが、やはり最初の「近江西の家」が完成した時の「これまでと違う」と感じた新鮮な印象が強く残っています。
随所にパッシブデザインの要素が盛り込まれており、1棟目ということもあって特別でした。
実際にお住まいの方がとても豊かに暮らされていて、私たちが目指す姿を体現されていると感じました。お客様の言葉を通して、パッシブデザインの可能性を確信できました。
金子先生
私たちは奇抜なデザインを目指しているわけではなく、地域の特性や自然エネルギー、文化や風景を取り入れた住宅の設計を重視しています。
その結果、ひと目見て「何か違う」と感じてもらえたのなら、それは地域の本質が表れている証だと思います。
また、私は住まい手が豊かでアクティブになることを願っています。
何でもやってくれる住宅は便利な反面、住まい手の行動を奪ってしまう懸念もあります。自ら窓を開けるなどの自発的な行動ひとつで暮らしが豊かになり、楽しさが生まれ、結果的に光熱費も抑えられる。そんな良い循環が育まれる住まいをつくっていきたいですね。
金子研究室と敷島住宅の展望
――加藤、今後も金子研究室との取り組みは続いていくのでしょうか?
加藤
そうですね。「パッシブデザイン7地域モデル」は、今4カ所目を進行しているところです。今後もぜひ、金子先生とともに進めていきたいと思っています。まずは7地域を完成させ、そこからが本当のスタートという思いです。
金子先生
7地域が揃えば、地域ごとの違いをお客様に提示でき、住まう方の意識にも少しずつ働きかけられるのではと感じています。
加藤
現在は分譲地で進めていますが、注文住宅でも「パッシブデザイン7地域モデル」を通して弊社の実績を実感いただき、より魅力的な住まいをご提案できると考えています。
金子先生
そうですね。お客様にとって「魅力的」ってすごく重要なキーワードだと思います。
住宅建築は、最終的に長く住んでいただくという点に尽きるのではないでしょうか。
例えば、すごく高性能な住宅が15年でなくなってしまうよりは、愛されて長年住んでいただいたり、2代に渡って受け継がれたりというように、敷島住宅さんと我々で一緒に長く愛していただける住まいづくりを続けていきたいです。
加藤
学生の皆さんにも関わっていただいていますが、彼らの探求心やチャレンジ精神から私たちも大いに刺激を受けています。
金子先生
こうした機会は研究室としても非常にありがたいです。学生の間に自分たちでリサーチし、計画して、実際に立ち上がるところまで経験させていただいています。
「パッシブデザイン7地域モデル」を通して、それをいかに世の中に還元できるか、また、住まう人に快適な空間を届けられるかを考えることにも繋がります。
毎月ミーティングを実施して、敷島住宅さんを訪問したり、大学に来ていただいたりもしているんですよ。
加藤
私たちも、金子先生と学生の熱量に応えようとする相乗効果が生まれていますね。
金子先生
ミーティング後に学生たちと話す中で、敷島住宅さんの姿勢に刺激を受けて、学生ならではの視点もより磨かれていると感じます。また、完成したもののクオリティや精度、密度も確実に上がってきています。
残り3カ所についても、新しい視点で取り組んでいきたいですし、私自身も「7地域が揃ってからが本当のスタート」だと思っています。モデルの特徴をセットでお伝えできるよう、早く完成させたいですね。
加藤
我々は今後、注文住宅に注力していく方針なのですが、その中で、やはり断熱性能の追求は不可欠だと考えています。国内最高基準の「HEAT20 G3.0」仕様のモデルハウスを、滋賀県の川原町に先日完成させました。さらに、実際の基準としてはないものの、社内では「G2.5」と呼ぶ仕様のモデルハウスも、京都・伏見の桃山で建築予定です。いずれもパッシブデザインを取り入れ、より高い付加価値を目指しています。
金子先生
国が定めた断熱基準を普及させるために理解を深め、住宅という形でいかにお客様に届けるかという点では、各社それぞれにポイントがあると思います。
そこで、単に断熱性能を上げるだけではなく、「ほどよい断熱」とパッシブデザインを組み合わせ、住まいのアクティビティを高めていくことが今後ますます大切になると思います。
まずは7地域モデルを完成させ、その考え方を社内や社会にどう展開するかが今後のカギになりますね。
加藤
まさにおっしゃる通りですね。分譲住宅で先生と取り組んできたことを、注文住宅など幅広い活動で広げていくことが、今私たちが目指す住宅事業の姿だと考えています。
――本日はありがとうございました
まとめ
いかがでしたか?
敷島住宅のパッシブデザインは、省エネのためだけの技術ではなく、地域の風土や暮らしに寄り添い、快適性や豊かさを育むための住まいづくりです。
その象徴が、「パッシブデザイン7地域モデル」。
高性能な仕様の利便性だけにこだわるのではなく、自然の恵みや土地の個性を暮らしに取り込み、住まい手自身が日々の暮らしを楽しみ、住まいを育てていく——。
そんなアクティブで豊かな暮らし方を、私たちはこれからもご提案していきます。
分譲住宅で培った知見を活かし、注文住宅でも、より多様なライフスタイルに応えるパッシブデザインを展開してまいります。
対談の様子はこちらの動画から
https://www.youtube.com/watch?v=zvpzliqYQNc
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