今回は、一級建築士でもあるライターの成田佑弥さんに、建築士の目線でReco.seriesのオーナー様であるF様邸を解説いただきました。
建築士が事例解説!法的制限を工夫で乗り越えニーズに応えた住宅
2019年8月19日
今回見学させていただいた住宅は、平成31年2月に竣工した大阪府に建つRECO住宅、F様邸です。
広々とした居心地の良いリビングダイニングが、特徴的な2階建ての住宅です。
みなさまは、住宅を建てる際に建物の面積や大きさ、高さを規制する法律があるのをご存知ですか?
実は、こちらの住宅は建物を規制する法律の中で工夫を重ね、空間を最大限に生かして建てられています。
現地を見た際は、何不自由なく、心地よさ、住みやすさを追求した設計であると感じながら見学をさせて頂いていたのですが、図面を見せてもらい、感じたのは「驚き」でした。
図面には、お施主様に誠心誠意を尽くす・・という建築士の思いがありました。
この記事では、F様邸の
高さや広さの制限が厳しい中、どのように「居心地のよい住宅」を実現しているか
という工夫点について、わかりやすく解説していきます。
F様邸間取図
間取りは、次の通りです。
1階:LDK+和室・玄関・洗面+風呂・トイレ
2階:洋室x3+ウォークインクローゼット+書斎・トイレ
配置計画での工夫
F様邸の配置計画は、敷地隣地に接する北、西、東面では敷地の境界に近づけ、道路に接する南面には大きくスペースをあけつつ、玄関を突出させた計画となっています。
建物をこの配置とすることで得られる効果は何だと思いますか?
車・人の出入りのしやすさとプライバシーに配慮した配置計画
配置計画により得られる効果は、2つあります。
①「車・人の出入りのしやすさ」と②「プライバシーの確保」の2点です。
建物を敷地の境界に近づけた北・西・東面では、窓を減らしプライバシーを守っています。
道路と接する南側では、敷地の境界と距離を離した配置とし、道路を通行する第三者からのプライバシーを守りつつ、日当たりを確保しています。
また、建物を離した距離も的確と言えます。
敷地南東側では、縦入れの駐車場を確保した上でその奥にLDKを配置しています。
この配置により、止めやすい駐車場と日当たり良好なLDKの空間を作り出しています。
敷地南西側では、突き出した玄関の入口を脇から入る形にし、玄関を開けた際に道路から中が見えないように、配慮されています。
また、外壁の表情を木目調と緑豊かな植栽で演出し、街並みとの調和がとれるような工夫も見られます。
配置計画は、敷地の使い方を考える部分です。
F様邸は、建物の大きさが52㎡以上大きくできない制限がある中、建物の大きさを、51㎡としています。
余裕が1㎡です。
人・車の出入りの利便性とプライバシーを確保ができている上で、この数字が見られるということは、お施主様のニーズに応えるべく、非常にたくさんの検討を重ねている証拠と言えます。
配置計画に関わる法的な制限では、
上空から見た時の建物の大きさを、指定の大きさ以下にする。という内容の制限が設けられています。
詳しい内容はこちらからご覧ください。
⇒配置に影響する規制=接道、建ぺい率
平面計画での工夫
動線の短縮、機能集約で生まれるスッキリ心地よい居住空間
平面計画では、
① 動線を短かくすること
② 似た機能を集めること
を徹底することで無駄を削り、広々としたLDKや寝室を作り出しています。
動線を短くすることは、
居住に関わるスペースを広くすることや移動距離を減らして、生活のしやすさに繋がります。
似た機能を集めることは、
動線を短くすることと省スペース化を図り、住みやすさや使いやすさに繋がります。
また、これらの効果により収納スペースは、理想的とされる建物全体の広さの20%以上を確保しています。
この数値は、動線の短縮、機能集約を効果的に行っているからこそ出せる数値であり、秀逸な平面計画であるといえます。
また、出入口を引戸として、室間の行き来のしやすさにも配慮しています。
1階での工夫
・南西側に収納・玄関、北西側に風呂・洗面・台所を寄せてまとめ、あとの全ての空間を間仕切りのない約35㎡のLD+たたみスペースとしています。
風呂・洗面・台所をまとめることは、家事のしやすさを高めるほか、排水のためのスペースを小さくできるため、住宅設計のセオリーとなっています。
・LDK+たたみスペースは、一体的空間でありながら凹凸の平面形状とすることで、リビング、ダイニング、たたみスペースを小さなまとまりとなるように緩やかに分けて、使いやすさを高めています。
・階段への動線は、リビングの一部を用いることで、スペースの有効活用をしています。
2階での工夫
・断面計画にもかかる点ですが、北側は天井高さが低い部分に収納を配置し、寝室を南側にまとめています。
これにより、日当たりのよい寝室を作り上げています。
平面計画は、建物の使い方を考える部分です。
建物を建てる際、法的に床の広さに制限が設けられています。
F様邸は、建物の床の広さが約105㎡以上大きくできない制限がある中、建物の大きさを、約100㎡としています。
建てられる広さを最大限に確保して、広々としたLDKやたっぷりの収納スペースのある住みやすい空間を作り出しており、攻めの設計であることがわかります。
詳しい内容はこちらからご覧ください。
⇒影響する規制=容積率
断面計画での工夫
断面計画とは、高さ関係を考える設計になります。
空間のありようにつながります。
F様邸では、特に次の二点の工夫があるからこそ、建築条件の制限が厳しい場所にある敷地であるにもかかわらず心地よい空間として成り立っています。
① 2階の北側を割り切って、高さを切り詰めていること
② 1階LDKの天井を折り上げ天井としていること
これらの工夫により得られる効果は何だと思いますか?
2階の北側を割り切って考え、他の空間を豊かに
F様邸の2階北側部分には、ウォークインクローゼットと来客用の洋室が配置されています。
部屋を見ると天井が斜めになっています。
何のために斜めにしているか?
というと、高さの制限をかわすためです。
天井を斜めにしなければ生まれない室内空間を、天井が低くても使えるスペースとして活かすことで、お施主様の要望にあった、配置計画、平面計画が成り立つように断面計画でバランスをとっているのです。
そして、建物高さにおいて特に制限の厳しい部分では、建てられる高さより0.6mmだけ低い設計がされており、極限まで切り詰めています。
この切り詰め方は、制限をクリアしながらも、ギリギリまで住宅の居住性を高めようとする姿勢が現れています。
設計者が計画とお施主様のニーズに向き合い検討を重ねなければ、この判断はなかなかできません。
どのような高さ制限がかかっていているかについては、こちらに詳しく書かせていただいています。
⇒影響する規制=高さ制限
折り上げ天井で快適な空間を
また、注目すべきは、1階LDK中心の折り上げ天井(ブラウン色の天井部分)です。
天井の高さを高くすることで、LDKの心地よさを演出しています。
他の部分よりも天井を高くするためには、検討と工夫が必要です。
大きく影響するのは、①構造体と②配管スペースです。
F様邸の設計では、構造体や空調機器の配管スペースを確保するため、1階の天井上部から2階の床の間には500mm程の高さが必要です。
そのうえで天井の一部を上げるために、配管を通さなくても成り立つ設備計画とし、天井裏を構成する構造体を小さくする工夫がなされているのでしょう。
最後に~法規制をクリアしながらも、住みやすい家が作れるかどうかは、設計力に関わる~
法的な高さや広さの制限は、敷地の大きさが影響します。
広々とした敷地であれば、本記事で紹介した例を含め、家を建てるための法的制限はクリアしやすいといえますが、どんな敷地であっても、お施主様の望む暮らしに近づけながらプランニングすることが建築士の役目であり、それこそが設計力でしょう。
また、今回の事例から読み取れるのは、お施主様の要望にできるだけ応えようとする敷島住宅の設計力の高さです。
敷島住宅では、その設計力を活かして皆様の悩みを解決できる、次のような無料イベントなども行っているようです。
暮らしたいのはどんな家・無料間取りプラン相談会
これほどのお施主様の思いに応える攻めの設計を見せられると、「少しでも興味ある方は、一度見学に行かれても間違いありません!」と言わざるを得ません。
【補足資料】住宅を建てる時に切り離せない課題、法的な制限について
ここからは法的な制限内容について、補足的にまとめさせていただきます。
法律をテーマにするとなると、ややこしい話かと思われるかもしれません。
専門的になるので、実際に家を建てる際には設計士に任せて頂く領域のお話ではありますが、法規は建築を作る際、クリアすることが当たり前の条件となりますので、知っていてもよいかもしれません。
法規を知っていると次のようなメリットがあります。
これらのメリットは、皆さんの望む家づくりがスムーズに作られるかどうかに関わってきます。
<法規を知っていると得られるメリット>
・設計者の立ち振る舞いや提案が正しいか、検討の余地はないか見極められる。
・土地に対してどのような建物が建てられるか分かるため、的確に要望をつたえられる。
・土地購入を検討する際、要望の叶う建物が建てられる土地であるか見極められる。
法律で建物の形を制限する目的=住みやすい都市を作るため
特に、計画する内容で住みやすさに関わる部分は、建物の「広さ」と「高さ」です。
建物の広さと高さに対し、影響する規制は、「集団規定」という法規により定められています。
なぜ、法的に広さや高さを制限する「集団規定」があるかというと、「敷地や建物=都市の一部を織りなすもの」という考え方に基づいているからです。
法律で建物の形を制限する目的=住みやすい都市を作るためと考えてよいです。
各敷地・建物が都市を織りなすため、敷地毎に役割が定められています。
役割は、混ざると混乱につながるエリアの種類別で分けられています。
・住みやすいエリア
・商業しやすいエリア
・工業しやすいエリアなどの分け方です。
そして、エリアごとに適した街並みが作られるように、建物の用途の種類や形の制限が定められています。
日本では制限が定められてるからこそ、次のような街並みが生まれています。
例1.低層の閑静な住宅街
例2.駅前の買い物のしやすい便利なエリア
例3.住むエリアと離れた場に、工場地帯がまとまっている など
定めていない地域では、あなたの住む家の隣に望ましくない建物や、巨大で日当たりを遮る建物が立つ可能性が十分に出てきます。
近隣に住む同士が、悪影響を与え合わないように、
ちぐはぐな街並みが生まれないように、集団規定が定められているのです。
それでは、次に具体的に影響する集団規定を見ていきましょう。
工夫点は、影響する規制が異なること、計画の仕方も仕切りのあることから
配置計画/平面計画/断面計画 に分けてまとめていきます。
配置に影響する規制=接道、建ぺい率
配置計画に対しては、道路との接続状況である「接道」と、敷地の広さに対する空地の広さに関わる「建ぺい率」が影響します。
接道
建物を建てる際、敷地は幅4m以上の道路に接しなければなりません。
その理由は、災害時に消防車や救急車がたどり着ける道を確保する為です。
一方、日本には、幅4m以上確保できていない道もあります。
その為、幅4m以下の道路に接する場合、道路幅が4m確保できるように、敷地の一部を道路にする必要があります。
狭い道を広げることは、敷地面積が小さくなることと表裏一体です。
F様邸でも、幅4m以下の道路に接続するため、道路に接する敷地を150mm道路としてカウントしています。
建ぺい率
建ぺい率は、敷地の広さに対する建築面積の割合です。
計算式は次の通りで、敷地毎に上限の建ぺい率が定められています。
建ぺい率(%)=建築面積÷敷地面積×100
建築面積のカウントの仕方は、建物の上空から見た時の広さのイメージです。
なので、10階建てでも1階建てでも、上空から見て、大きさが同じであれば、
建築面積は同じとなります。
敷地内の空地がどれほど確保すべきか定めている規定とも言えます。
どんな建物でも、敷地をはみ出て建てることはないため、建ぺい率は100%を超えません。
敷地ギリギリまで建てた場合は、建ぺい率100%となります。
例えば、建ぺい率の上限が50%の100㎡の敷地であれば、建てられる建築面積は50㎡までです。それ以上は建てられません。
F様邸の敷地面積は約104㎡で、上限の建ぺい率は50%です。
そのため、建築面積は約52㎡まで建てることができます。
F様邸の具体的な配置計画の工夫点ついてはこちらをお読みください。
⇒配置計画での工夫
影響する規制=容積率
平面計画に対しては、敷地の広さに対する床の広さに関わる「容積率」が影響します。
容積率とは、敷地の広さに対する延床面積の割合です。
計算式は次の通りとなり、敷地毎に上限の容積率が定められています。
容積率(%)=延床面積÷敷地面積×100
延床面積のカウントの仕方は、建物の床の面積全てとなります。
なので、同じ建築面積の10階建てと1階建てを比べる場合、延床面積は10倍の差が生まれます。
例えば、敷地面積が100㎡、容積率の上限が200%と定められている場合、何階建てであっても、延床面積は200㎡を超えることができません。
本計画の敷地面積は、約104㎡、上限の建ぺい率は100%であるため、延床面積は約104㎡まで建てることができます。
F様邸の具体的な平面計画の工夫点ついてはこちらをお読みください。
⇒平面計画での工夫
影響する規制=高さ制限
建物の高さの制限は、主に3種類あります。
絶対高さ/斜線制限/日影規制の3種類です。
特にF様邸に影響が著しい斜線制限についてご説明します。
斜線制限は、さらに3つに分けられ、次のような目的の制限となっています。
北側斜線:敷地北側の隣地に対して、日当たりが悪くなりすぎないように制限
隣地斜線:隣地への圧迫感を与えないように制限
道路斜線:隣地への圧迫感を与えないように制限
そのため、敷地の境界線から近ければ近いほど規制を受け、離れれば離れるほど規制を受けないタイプの規制です。
F様邸の具体的な断面計画の工夫点ついてはこちらをお読みください。
⇒断面計画での工夫
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レゴ好きの幼少期を過ごし、高校~大学院にて建築学を10年間学ぶ。
公共建築から住宅まで設計を手掛ける設計事務所に7年間勤務後、スタジオ・デンデンを設立。「たのまれごとは試されごと」をモットーに、声がかかればどこでも足を運ぶクリエイターとして川崎・横浜を拠点に活動中。
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